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弁護士ブログ

2018/10/09

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このブログでもこれまでに何度かお話ししたことがあるのですが,江戸末期から明治20年にかけて優れた俳句作品を残した井上井月という俳人がおります。私などは井月に憧れて,家族と一緒に井月の終焉の地である伊那谷まで出かけたことがあるのです。

 

芥川龍之介も高く評価し,あれほど優れた作品を残した井上井月も,実は下島勲という人の熱意と尽力がなければ,これほど世に知られることはなかったかもしれません。下島勲(俳号空谷)は,伊那谷出身の医師であり,幼少期には実際に井月と接したことがありました。その下島勲は,井月の書き残した句を収集しようと思い立ち,ついに大正10年に「井月の句集」を出版するに至るのです。その跋文は友人である芥川龍之介が書きました。下島勲という人物が,なぜ労力と費用を惜しまずにこのような行動をとったのか・・・。それは彼が幼少期に井月に対してなした過ちの記憶,負い目が心の奥底に横たわっていたからです。換言すれば,心にたまった澱(おり)のようなものが彼をしてそうさせたのでしょう。そのあたりの描写が,「井上井月伝説」(江宮隆之著,河出書房新社)という本の中にありますので,少し引用してみましょう。下島(俳号空谷)と芥川のやり取りです(同書10~11頁)。

 

つまり空谷と芥川は、隣人であり、友人であり、尊敬し合う同志であった。
「自慢で言うわけではありませんがね、龍之介さん。伊那谷には、結構風流の分かる人がいたのです。私の父親という人もそういう田舎の人間でしたが、風流を解する一人でした。ですから、井月さんに宿を貸し、酒食を与え、その代わりに書なんぞを書かせて満足するような人だったのです。井月さんはちょくちょく私の家にやってきました・・・・」
まだ尋常小学校に上がる前の空谷は、時々やってきては祖母が出してやった酒をうまそうに飲んでいる井月や、離れに宿泊しては布団に虱を撒き散らして母親を愚痴らせた井月を見て育った。
「私よりふたつみっつ年上の連中と一緒になって、井月さんをからかったり、馬鹿にしたりしたことがありました。その頃の私たちの目には、井月さんは単なるこじきとしか映りませんでしたから」
やがて悪たれ坊主どもは、井月がいつも腰にぶら下げている瓢箪(これには井月は与えられた酒を入れていた)目掛けて石を投げ付けた。
子供である。一人がやると面白がってみな同じことをする。だんだんエスカレートして、石の大きさも子供が投げるとはいえ、こぶしほどの石になった。
「私も、こじき坊主め、くらいの気持ちで仲間の悪たれと一緒に石を投げたんです。それが・・・」
誤って井月の頭に当たった。
「ぼこっというような嫌な音がしましてね、私は投げ付けておいて、あっと思ったんです」
芥川が、ほうっと言いながら腕組みをしたままで空谷を見つめた。
「やがて井月さんの後頭部から真っ赤な血が流れ出てきました・・・ところが」
芥川は身を乗り出して、空谷の次の言葉を待った。
「井月さんは振り向きもしないで、いつもと変わらない足取りで、とぼとぼ歩いていくのです。血の流れ出るに任せたまま・・・」
「それで空谷先生、どうしました?」
「どうにも出来ません。ただ」
「ただ?」
「恐ろしかった。それも非常な恐ろしさでした。身の毛がよだつ、とはあのことです。私はもう後ろも見ないで一生懸命逃げ帰りました。あの時、私は子供心にも井月さんの何かを感じたんでしょう。それが負い目にもなり、逆に井月さんへの敬愛にもつながっているのです・・・」
「空谷先生、よく分かります。分かります。井月の胆力が、目に見えるようです。そして空谷先生の心の裡も」

 

下島勲という人物が労力と費用を惜しまずに「井月の句集」を出版し,その後も広く井月の顕彰などに務めたのは,彼が幼少期に井月に対してなした過ちの記憶,負い目が心の奥底に澱のように横たわっていたからです。

 

私はたまに,井上井月の味わい深い,情趣豊かな,その句から自然にその光景を思い起こさせるような数々の秀句を味わっております(「井月句集」(復本一郎編,岩波文庫))。

 

話はガラッと変わりますが,私にも心の奥底に澱のように横たわっている苦い思い出があります。私は,焼きそばの上に添えられた目玉焼きを食べるのが何よりの楽しみなのですが,同業の女性弁護士に知らぬ間に食べられてしまった苦い経験があります(笑)。その日は,二次会か三次会で5,6名でそのお店に行ったのですが,席の位置からしてその女性弁護士と私で焼きそば一皿を分け合って食べるような感じでした。

 

ところが,話に夢中になっていた私がふと焼きそばの方に目をやると,お目当ての目玉焼きが忽然と消えていたのです。全く油断も隙もありません(笑)。執念深いと揶揄されつつも,そのことが今でも心の奥底に澱のように横たわっております(笑)。

 

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