三島由紀夫の作品は大学生の時にあらかた読んでしまったのですが,脱稿が作者の死の直前となった最後の長編小説,「豊穣の海」全四巻(「春の雪」,「奔馬」,「暁の寺」,「天人五衰」)は残念ながら読まないままこの年齢になってしまいました。「豊穣の海」全四巻を読まずして,三島作品を論ずるのは気恥ずかしいですね。
実は,三十代の頃だったかな,第三巻「暁の寺」を読み始めてほとんどすぐに挫折してしまったのです。登場人物である本多繁邦の長いセリフ,振るった長広舌の内容が極めて難解,晦渋で,何度読み返しても頭に入って来ず,途中で苦痛を感じて嫌になってしまったのです(唯識論をつきつめようとしているのは何となく分かったのですが)。漫才のサンドイッチマン風に言うと,「ちょっと何言ってんのかわからない。」といった感じ(笑)。
そもそもですよ,この「豊穣の海」全四巻は夢と転生の物語で,二十歳で死ぬ若者(松枝清顕)が次の巻の主人公に輪廻転生していくという設定,物語なのに,なんで第三巻「暁の寺」から読み始めるのかというわけです。馬鹿な私・・・。
そこでついこの間,本のネット通販で買い求めた第一巻「春の雪」を読み始めたのですが,結局は130ページくらい読んで再び挫折してしまいました。主人公の松枝清顕の親友・本多繁邦がここでも長広舌を振るい,その内容がこれまた難解,晦渋で何度読み返しても頭に入って来ず,途中で嫌になってしまったのです(笑)。
三島作品はとても好きなのですが,もう私も年齢的に目がショボショボしてきましたし,「豊穣の海」全四巻の読破は諦めました。せっかく購入した「春の雪」もうちのカミさんに頼んでメルカリで売ってもらいました。
その代わりと言ってはなんですが,先ごろ95歳で鬼籍に入られた徳岡孝夫さんの「五衰の人-三島由紀夫私記-」(文藝春秋)はとても良い本でした。三島由紀夫その人を知るには格好の文献(書籍)ともいうべきもので,文章も素晴らしくすうーっと頭に入ってきて,また読み返したいくらいの本です。